「いくら鼠が頑張っても、所詮、猫には適わんのだよ（笑）」   あいつ…

「いくら鼠が頑張っても、所詮、猫には適わんのだよ（笑）」

 

あいつは鼻で笑うようにそう言った。

 

 

家と現場を往復するだけの日々。

 

真面目と言えば聞こえはいいのかもしれない。しかし、その実態は、地味で冴えない人間でしかなかった。

 

自分の人生はこのまま何も起きずに終わってしまうのだろうか？

50になって、60になって、ただ年老いて死んで行くだけなのだろうかと･･･

 

そう思いながら、私は自分から行動を起こす事もなく、何か起きるのをただ待っているだけの受け身な人間だった。

 

けれど、いくら待ってもそんなドラマチックな事は起こるはずもなく、代わり映えのない日々が過ぎて行くたけだった。

 

私は自分の人生を変えたかった。生き方を変えてみたかった。

 

あいつから誘いを受けたのはそんな時だった。

 

こんな事ってあるのだろうか？と思うような、夢のような話だった。

 

自分の人生が変わる･･･

 

パワハラの巣窟である職場から逃れられる。これでもう虐められずに済む･･･！

 

そして、豪華なマンション、高級車、欲しかったものを全て買って･･･

そんな期待と夢に胸を躍らせていた。

 

しかし、その結果は･･････

 

 

「死に物狂いになれば鼠だって猫を噛み殺せる･･･」

 

許せなかった。

 

でも･･･

私は成敗できなかった。

 

何故なら、実行すれば私が捕まるからだ。

被害者から加害者にされてしまう。

 

つまり私にはまだ人生を捨てる勇気がなかったのだ。

捕まるのを怖れるという事はそういう事である。

 

もうどうなってもいい。

捕まっても、死んでもいいという開き直りがあれば、そんな事は怖れないはずである。

私は自分が情けなかった。

 

やられたからやり返すだけなのに、何故、捕まる？

何もしていない人間に危害を加えたならば捕まって当然だが、私は酷い仕打ちを受けたのだ。

 

やられ損で終わるしかないのだろうか？

それだとやった者勝ちではないか！やりたい放題になってしまうではないか！

 

うまい話に釣られたお前の愚かさは？

 

私は頭に血が昇った。

 

被害者に向かって何て事を言うのだ！？セカンドレイプ･･･ならぬセカンド暴力だ！と言えたら良かった。

が、私は上流階級の人間ではないから、魔法の言葉が使えない。

 

結局、私は仕事も家も失った。

 

野良犬状態となり、落ちるところまで落ちた私に救いの手は無かった。

 

日雇い労働からやり直し、築50年以上にもなるボロアパートではあるが、何とか寝床を確保する事ができた。これ以上、落ちようがないというところまで落ちると這い上がるしかない。

底辺者である事に変わりはないが、他人に養ってもらいながら威張り腐っている人間よりはマシだ。

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