（その３） 会社の空気は俺にとって好ましくない状況になっていた。 『…

（その３）

会社の空気は俺にとって好ましくない状況になっていた。

『俺がしつこく新人の女の子に付き纏った。そしてその子を泣かせた』

そういう事になっているらしい。まあ事実であろう。ただそうなる経緯は俺以外誰も知らない。
△△は何事もなく無事に家に帰っていた。それは良かったと思う。その後、彼女は同僚の女の子に泣きながら電話したらしい。俺が声をかけていたのを、他の女子社員に目撃されていたのも手伝ったのだろう。こういう噂は一瞬で広まる。恐ろしかった。
マズイ状況なのはわかったが、どうしていいかわからなかった。
昼休みが終わった時だった。

「おまえちょっと来い」

上司が俺を呼んだ。

「なんでそういうことしたの？」

説明が大変だった。
俺の言い分は要約すると「あんたと○○のせいだろ！　電話出ろよ！」これしかなかった。
これまた信じられないことに、上司と○○は俺に送り係を依頼したことを覚えていなかった。飲みすぎだろ。
「朝見たら何か着信多いと思ったよ。酔っぱらって電話間違ってるかと思った」なんて言いやがる。
俺は泣きながら無実を訴えた。俺は何で泣いているんだろう。社会的に終わるから泣いているのか。信じてくれないから泣いているのか。状況がアホらし過ぎて泣いているのか。あるいはその全部だろうか。そんなことを考えながら泣いていた。
幸い上司と○○が俺に送り係を依頼していたことは、そのとき一緒にいた同期の友人たちが証言してくれた。
俺のところに○○が謝りに来た。△△を引き合わせるのはさすがにマズイと思ったのだろうか。上司と一緒に○○が来た。
○○は自分のミスだったあなたの責任ではないと、ちゃんと頭を下げてくれた。△△には個別に説明して注意しておくし、部署スタッフは全員集合させて経緯を説明すると約束してくれた。
良からぬ噂を話している人がいたら自分に連絡するようにとまで言ってくれた。よくできた人だ。あんたのせいでこうなったのだが。

一度噂が広まると、それは訂正されても印象だけは残り続ける。俺はセクハラしてないが、女子社員の目に映る俺はセクハラ野郎だ。陰口は聞こえてこなかったが、冷たい視線は常に感じた。どこか俺を知らない人たちがいる場所に行きたかった。
疲れていた。俺は会社を辞めた。

もう昔の話です。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（おわり）

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