私の世代では、その後退方法こそが正しいやり方です。

今は亡き私の父親も、そのやり方でした。

私は高校生ぐらいから自動車関係の雑誌や書籍を読んでおりましたが、これらにもその後退方法が正しいと書いてある傍ら、ミラーだけでの後退や、運転席のドアを開けて右後ろだけを見ながらの後退は邪道とすら書いてありました。

「トラックがミラーだけで後退しているから」などというのは、乗用車とトラックとでは積み荷の状態や荷台の形状、ミラーの形状の違いを知らない無知な輩のほざく屁理屈とまで書いてありました。

1977(昭和52)年でしたが、日産からオースターという車が新発売されました。

当時、私は17歳で運転免許取得前でした。

オースターのテレビＣＭ冒頭では、オースターが後退して出てきます。

あまりにもスルスルとスムーズに後退するので、前進で撮影したフィルムを逆転再生しているのかと思いました。

しかし良く観ると、バックランプが灯っています。

ジックリと窓越しにドライバーの姿勢を観たら、ドライバーは、まさに左手で助手席背もたれを掴んで、リヤガラス越しに後方を見ながら後退していました。

因みに車のＣＭに出てくる劇用車を駆るドライバーは、卓越した運転技量を持つ、手練れのドライバーを厳選しているそうです。

この時代の乗用車のサイドミラーは、今ではタクシー以外には見かけないフェンダーミラーでした。

加えてその大きさは、バイクのミラーぐらいです。

ミラーの視界だけで後退できる代物ではありませんでした。

現にこの当時、私の父親の友人が、買ったばかりの愛車を車庫入れ時にぶつけています。

父によればこの友人は、後退時に後ろを振り返って見ようとは一切せず、ミラーだけで後退させていて、ろくすっぽ後ろが見えない状態で、無理やり後退しているとのことでした。

こうした時代を過ごしてきたドライバーにとって、ミラーだけで後退することは邪道なのです。

ただ最近のミニバンなどのミラーは、トラック並みに大型化しており、多くのドライバーはもはやミラーだけで後退することが当たり前になっているようです。

しかし昭和の時代に運転免許を取得したドライバーにとって後退時の後方確認は、やはりリヤガラス越しに視界を確保するべきという概念が抜けないものです。