楳図かずおの【人こぶ少女】（昭和42年作品）という漫画を読んだ。 中学生の…

楳図かずおの【人こぶ少女】（昭和42年作品）という漫画を読んだ。

中学生の優子は家庭の事情によりいとこで同い年のアグリの家に世話になる事になる。アグリは優子が到着早々、自分の部屋に来るように命じる。アグリの頬には大きなこぶがあり、普段は長く伸びた髪を垂らして隠していた。アグリは優子の手を掴み、自分のこぶに押し当てる。その感触に優子は驚き「きゃあっ！」と悲鳴を上げる。そしてアグリは「この事は家族しか知らないわ。そしてお前と…。いいかい、見たからには絶対に他の人にはしゃべっちゃダメ。分かった！？さぁ、もういいわ。出てお行き。せっせ（さっさ）と出てお行きったらっ！」と言い放ち、優子を部屋から追い出す。アグリは色白で肌の綺麗な優子を妬み、何かにつけて意地悪をしたが、優子は何とも思わなかった。むしろ（アグリさんはきっと僻んでいるのだわ）と哀れんでいた。ある日アグリは、ナイフでこぶ突き、流れ出た血を同い年の子の顔写真に垂らせばこぶはその人にうつって治るという話を子供の頃に聞いたのを思い出し実行する。「こぶよっ、優子にうつれ！うつれ！」と唱えながらナイフで突き刺したこぶからポタポタ垂れ落ちる血を優子の顔写真にかけた。が、そこに優子が入ってきて見られてしまう…


アグリの強い劣等感、そしてその為に現れる優子への僻みがこれでもか！というくらいに描かれている。優子を美少女に、そしてアグリを野暮ったい癖のある顔に描いていて、見た目と性格を一致させるという分かりやすい手法で描かれている。
アグリ家の祖母やクラスメイトなど皆から味方される被害者ポジション（美味しい役）の優子と、皆に嫌われ誰からも理解してもらえない加害者ポジション（損な役）のアグリ、徹底して両キャラクターが善と悪で描かれており、少し極端ではないかと読み進めて行くうちに違和感を覚えた。次第に何となく優子が悲劇のヒロインぶっているように感じられ同情できなくなった。そうなるとアグリの「これでもかっ！」というくらいの優子への意地悪も愉快になってくる。何よりアグリの被害妄想が面白かった。
一番ウケたのは、アグリが自分で切り落としたこぶを優子の頬に擦り付けながら、「こぶよ！優子にうつれ！このこぶがお前の顔にうつったら愉快だね。ハハハハ」と言い放ち、優子が「キャーッ！やめて！」と抵抗しているシーンである。優子の悲鳴を聞いた祖母が飛んできて「どうしたんだい！？アグリ！優子に何をしたんだ！え！？」とアグリに問い詰めるも、アグリは「何でもない！二人とも出て行って！早く出て行け！」と取り合わないのだが、それどころか（これで優子の顔にこぶがうつるはず。あたしの苦しみをお前も味わうのよ！ハハハハ）と喜ぶアグリに私は何となく共感してしまったのだ。普通なら優子に同情しアグリに対して「何て酷い子なのかしら！」と反感を持つのかもしれないが、周りの皆から「アグリさんて本当に酷い人ね」「大丈夫？優子さん」と味方をされ励まされている優子をどうしても可哀想とは思えなかった。それは私自身が醜い顔の為に虐められながらも誰からも同情される事なく一人で耐え忍んできた過去があるからかもしれない。本当は虐めに遭っているのはアグリなのに祖母もクラスメイトも美人の優子に寄り添い、そして優子もそれをいい事に悲劇のヒロインポジションを愉しんでいるように見えたのである。

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